ベトナムで新規ビジネスのSNS広告が失敗する理由

ベトナムで新規ビジネスのSNS広告が失敗する理由

 
SNSの登場により、大企業だけでなく、中小企業や個人事業も広く発信するチャンスを得ました。しかし、その利用が広まってから時が経ち、今のデジタルマーケティング市場は競争が激化しています。自社の顧客を十分に把握し、戦略的に広告の入札に勝たなければ、SNSを活用してビジネスを成功させることは難しくなりました。

2017年前後の状況

2017年と2023年のベトナムにおけるデジタルマーケティングの状況を比較してみましょう。2012年にベトナム政府が機密性の高いコンテンツを懸念してFacebookの利用を規制していましたが、その後規制は緩和され、2017年にかけてFacebookの利用が拡大しました。そして主要なSNSとして君臨するようになりました。
2015年から2018年の間、ビジネスにFacebookを活用した企業は次々と成功を収め、特に2017年には大きな利益を上げています。マーケティング担当者は、広告へのコメントやメッセージを通じて潜在顧客と積極的に関わり、売上に繋げていました。オンラインでの買い物に不慣れな消費者は購入前の直接的なコミュニケーションを望んでいたため、このような施策が有効でした。この時期の個人的な経験として、筆者は生活用品店のキャンペーンを担当していました。主に広告へのコメントを活用した施策を通じて、アリババから仕入れた衣装ケースで毎月8億ドンの売上を達成していました。この売上は1つの商品からのものです。
また、Facebookの利用が拡大した頃と現在で、広告表示単価は大きく変化しています。2017年、生活用品の1,000インプレッションあたりのコスト(CPM)は約2~3米ドルでしたが、2023年に4~6米ドルとほぼ倍増しています(参考:Statista)。ベトナムではSNSユーザー数が2017年の4,600万人から2023年には7,000万人に増加しているにもかかわらず、このように広告費が高騰しているのは、広告掲載の競争が激化しているためです(参考:Digital Report)。広告における入札の原理は、AさんとBさんがどのような商品を売ろうが、同じ顧客層をターゲットにしている限り、広告を表示する権利を競り落とさなければならないというものです。要するに、入札に参加する広告が多ければ多いほど、広告単価は高くなります。Facebookは、広告に対するオーガニック投稿(友達からの投稿、いいね!された投稿、おすすめ投稿)の比率を下げることで広告の表示頻度を上げようとしていますが、単価の減少にはつながっていません。2017年にはオーガニック投稿7件ごとに広告が表示されていたのが、今ではオーガニック投稿2~5件ごとに広告が表示されるようになっています。
ベトナムでのSNS広告の背景を理解することは、特に中小企業にとっては非常に重要だと考えています。本記事では、このように日々競争が加速するSNS広告で、中小企業が陥りやすい失敗を5つ挙げています。
尚、この記事の理解を深めるため、まずはデジタルマーケティングの基礎的な知識を得たいという方は、以下の過去の記事をご参照ください。

1. 非効率なキャンペーン構成

経験が浅いマーケティング担当者にありがちな落とし穴は、注力したいターゲット層や具体的な戦略がないまま、SNS投稿やクリエイティブごとに広告素材を作成し、無駄にコストが発生することです。
生活用品を探している人向けの広告をテストしたいなら、そのターゲット層向けの広告をすべて同じキャンペーンにまとめ、システムに最適化させる必要があります。いわゆるA/Bテストです。ITを駆使することで、広告費を削減することができます。
また、1つのキャンペーンに異なる目的を含める広告を組み合わせ、その結果から広告を最適化させる事例もよく見受けられます。しかし、【新規顧客】と【リピーター】、【カートに追加を促す】のと【カートに追加された商品の購入を促す】のでは、キャンペーンの目的は異なるはずです。
更に、広告アカウント内のキャンペーン名称の重要性も軽視されがちです。きちんと規則性のある名称を設定しておくことで、データの検索が容易になり、キャンペーンの分析や先々の計画について議論しやすくなります。
デジタルマーケティング担当者にありがちなミスの例です。年度末に、翌年度の広告戦略を計画することを想像してみてください。1,000のキャンペーン、1,000の投稿があると、その結果からどのように次の施策を考えられるでしょうか?
デジタルマーケティング担当者にありがちなミスの例です。年度末に、翌年度の広告戦略を計画することを想像してみてください。1,000のキャンペーン、1,000の投稿があると、その結果からどのように次の施策を考えられるでしょうか?
同じ目的で同じキャンペーンの実施
同じ目的で同じキャンペーンの実施

2. 広告の過剰な複製

最も効果が高かった広告を複製する手法を取り、複製した広告がFacebookのアルゴリズムによって「真新しい」ものとして扱われ、インプレッションを伸ばせるケースがあります。
しかし、両広告が同時に同じターゲット層を対象にしている場合、互いに競合する可能性があります。
首尾一貫したキャンペーン構造がなければ、やみくもに広告を複製してしまい、広告費が無駄になってしまうため注意が必要です。
Facebookヘルプチームのコメント:複製の広告セットを作成すると、元の広告セットの情報がすべてコピーされます。もし両方の広告を同時に展開し、同じ顧客をターゲットにしている場合、互いに競合する可能性があります。それぞれに別々の顧客をターゲットにすることをお勧めします。
Facebookヘルプチームのコメント:複製の広告セットを作成すると、元の広告セットの情報がすべてコピーされます。もし両方の広告を同時に展開し、同じ顧客をターゲットにしている場合、互いに競合する可能性があります。それぞれに別々の顧客をターゲットにすることをお勧めします。

3. KPIの設定と振り返りができていない

弊社の調査では、事業主の90%がパフォーマンスダッシュボードを導入していませんでした。広告アカウントで日々のROAS(費用対効果)を見るだけでは、顧客の行動やライフサイクルを把握するのは難しいはずです。
広告予算のうち、新規顧客とリピーターにどれだけの予算が使われているのか、数字を把握していますか?AOV(平均注文単価)、CVR (コンバージョン率)はどのくらいでしょうか?販売状況を3日間検討するとして、その結果からパフォーマンスのレベルを判断し、状況に応じたアクションを考案できますか?
ビジネスの状況が分からないまま、やみくもに戦略を立てて振り回されてしまうことは避けましょう。Looker StudioやPower BIのようなダッシュボードを使えば、データで顧客を理解し、適切なアクションを迅速に取ることができます。
ダッシュボードの例
ダッシュボードの例

4. 価格戦略がない

価格、値引き率、キャンペーンでの値引きの設定など、価格戦略には顧客と商品の理解が必須です。
例えば、筆者は以前スポーツウェア店を運営していました。毎日ジムに通う顧客が多いというデータのもと、商品ごとに大幅な割引をする代わりに、「より買って、よりお得に」という施策を取りました。商品あたりの利益はある程度犠牲になるものの、顧客の生涯価値を高めることができ、更に口コミでのマーケティングを活用するために市場での商品認知度を高めました。
その結果、販売していたシャツは1枚109,000VND(4.5USD)しかしないにもかかわらず、毎月の平均顧客単価は400,000VND(16USD)でした。また、3つ以上の商品を購入した顧客には、2回目の購入時に10%のクーポンを渡しています。その結果、リピーターからの売上が毎月20%増加しました。口コミによる新規顧客数は、ピーク時には常に売上の5%を占めていました
顧客と製品を理解し、長期的な価格戦略を立ててみましょう。既存顧客を維持するためのコストは比較的に低いため、既存顧客のフォロー戦略が確立されていれば、新規顧客の獲得に投資することをお勧めします。

5. 顧客管理システム(CRM)の欠如

Shopee、Lazada、TikTokのようなマーケットプレイスの台頭により、新しいビジネスが独自の販路を開拓することなく、これらのプラットフォームに依存するというトレンドが生まれました。しかし、ビジネスの長期的な成長と持続可能性を目指す場合、独自のプラットフォームを確立するメリットも理解しておくべきです。こうした人気の高いマーケットプレイスを利用することは、膨大な顧客基盤に即座にアクセスでき、販売プロセスが簡素化される一方で、全面的に依存することは大きなリスクをもたらす可能性があります。マーケットプレイスのポリシーや料金体系、あるいはマーケットプレイスの存在さえも時間の経過とともに大きく変わってしまうリスクがあるためです。
自社専用のプラットフォームを構築するメリットは、企業が顧客体験、ブランディング、顧客データを完全にコントロールでき、他社のプラットフォームに依存するリスクを軽減することができます。特に、自社のCRMを確立すると、顧客が誰で、どこにいるのかを正確に把握することができます。大企業が1~3ヶ月に1度多額の予算を投じて顧客調査を行っているように、自社が顧客情報を握ることは顧客目線の販売戦略を立案する上で必要不可欠です。こうした情報は、製品やサービスの改善、ブランド認知度向上のアプローチ、顧客生涯価値向上の戦略など、ビジネス戦略を考案する上で非常に有用なものです。
自社のプラットフォーム構築は、初期投資や人的コストの観点では厳しいものの、持続的かつ自立的なビジネスモデルを確立する上で有利に働く戦略的な判断だと考えられます。

最後に

SNS広告を駆使するのは決して容易ではないですが、上記で挙げた5つの失敗を事前に理解しておくことで、成功確率は大幅に向上します。継続的にデジタルマーケティングについて学び、テクノロジーを戦略的に活用して顧客目線のアプローチを行うことで、新規ビジネスは持続的に成長できます。