セールス技法:デジタル時代におけるマーケティングファネルの活用

セールス技法:デジタル時代におけるマーケティングファネルの活用

 
ジョーダン・ベルフォート: 「このペンをオレに売れ。」
ある男: 「わかった。頼みがあるんだが、そのナプキンにあんたの名前を書いてくれ。」
ジョーダン・ベルフォート: 「書くものは持っていない。」
ある男: 「その通り。このペンの価値は機能性だけではない。需要を満たすことができるかどうかにある。その需要は、何かを書くということ。」
 
映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で有名なシーンです。映画の中で、レオナルド・ディカプリオ演じるジョーダン・ベルフォートは、営業の手腕を評価するテストとしてこの質問を投げかけています。
この鉛筆は単なる木と黒鉛ではありません。価値あるアイデアを書き留めたり、重要な契約書にサインしたり、絵を描いたりするのに使える道具なのです。ペンのようにインクがなくなることもありません。間違えても、消しゴムですぐに消せます。
しかし、この情報はこのシーンでは重要ではありませんでした。セールスマンは、鉛筆の必要性を作り出すことで製品の価値を即座に示し、販売を成立させています。これは、マーケティングファネルを正しく理解し、カスタマージャーニー(※顧客が製品・サービスの購入に至るまでのプロセスのこと)に適用したことで、ニーズを的確に捉えた分かりやすい例です。顧客のニーズを理解し、そのニーズに対するソリューションとして製品を提示することの重要性を示しています。

マーケティングファネルとは?

マーケティングの手法は長年にわたって変革を遂げてきましたが、根幹となるゴールは変わっていません。印刷メディア、放送、ダイレクトメール、電話が主流だった20年前も、AI、デジタルマーケティング、ECが花開いた今日も、マーケティング活動のゴールは売上を生み出す力によって測られています。
一方で、テクノロジーの進歩に伴い、顧客の行動も変化しています。昨今では、顧客はより個々人向けにカスタマイズされたジャーニーを望む傾向にあります。そのため、ブランドはインプレッション、クリック数、注文数、ROAS(広告の費用対効果/Return on Ad Spend)、カート追加数、カートコンバージョン率など数多くのKPIを追跡する必要に迫られています。
今では様々なデータを活用してKPI分析が可能ですが、データの膨大さに打ちのめされてしまうことも少なくありません。マーケティングの失敗は、戦略、予算、チャネル管理、メッセージングといったあらゆる要素を、消費者が購買を決定するまでのジャーニーに当てはめられなかったことにあります。マーケティング担当者や起業家は、マーケティング・ファネルを最適化するためのデータをうまく活用できないまま、適切な場所、タイミング、メッセージで消費者とつながる機会を逃してしまい、失敗に終わるのです。
ここで、すべてのマーケティング活動をカバーすると言われているシンプルなマーケティングファネルがあります。19世紀後半、実業家のエリアス・セント・エルモ・ルイス氏が考案したAIDAモデルです。AIDAとは、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Action(行動)の頭文字をとったもので、マーケティングを成功させるために必要なステップを分解したものです。このモデルは、マーケティングの根本的な価値観が2世紀前から変わっていないことを示しており、今日でも広く使われています。
進化するデジタル環境に対応するため、AIDAモデルも、今日のデジタル・エコシステムを反映し、エンゲージメント、共有、ネットワーク構築などの要素にも適応・拡張されてきました。例えば、Attention(注意)とInterest(関心)のステップの後、ブランドはEngagement(関与)の強化に注力します。これは、ソーシャルメディア・プラットフォーム上での「いいね」、コメント、シェア、あるいはデジタル・コンテンツとのコミュニケーションに費やされた時間として捉えることができます。

デジタルマーケティングファネルとは?       

Googleの登場は目覚ましいデジタル時代の幕開けを告げ、消費者行動に激震をもたらしました。急成長する製品の多様性とデジタル市場の普及により、従来のマーケティングファネルでは、すべてのタッチポイント(顧客接点)と重要な購買決定要因を網羅するには不十分になっています。そして、グローバルな顧客へのアクセスが可能になる一方、単なる言葉では簡単には動かされない、要求の高い顧客の増加にも直面しています。
そのためには、自社の製品特徴、デジタルオーディエンス、マーケティング戦略に合わせて、マーケティングファネルを戦略的に再設計する必要があります。
論理的には、このデジタル時代において、企業はカスタマージャーニーを綿密にマッピングし、顧客のあらゆるニーズに応え、方針を決定しなければなりません。
カスタマージャーニーは、企業のブランド、ソリューションを発見・認識することから始まります。マーケティングや広告宣伝活動広告は顧客の興味を引き出し、コスト、レビュー、ディスカウントなどの側面から競合他社と比較させます。そして、最終的に、顧客は購入を完了し、その企業の支持者となります。
これらすべてのタッチポイントには、KPIと達成目標があります。また、施策を行うたびに、最適なタイムラインを知るために振り返りの機会を設けます。
数年前の伝統的なマーケティングファネルでは、消費者はまずいくつかのブランドの候補を挙げ、購入に至るまでにその数を絞り込んでいました。今日、市場には何百万ものブランドが存在し、Google検索、TikTok、Facebookなど、様々なソーシャルメディア・タッチポイントを通じて、ブランドは消費者に認知されています。但し、消費者が積極的な買い物をしない限り、この露出の多くは無駄になってしまうのです。
だからこそ、マーケティングファネルのあらゆるタッチポイントにおいて、デジタルカスタマージャーニーを理解することが重要なのです。自社または顧客の問題を明らかにし、顧客の心の中で特別になるために最適な方法を見つけ出せる、ブランドを成長させるための明確なマップとも言えます。カスタマージャーニーは、探検家のコンパスのようなものです。なくても運が良ければ道を見つけることができるかもしれないですが、あれば、あなたが望む宝物のために進むべき道が確実にわかるのです。

マーケティングファネルの5つの要素 

私たちと一緒に特別な旅に出かけましょう。プレミアリーグの開幕を間近に控え、鼓動が高鳴るような興奮に包まれているとき、Facebookで驚くほど鮮明な映像が見れるテレビの広告を目にし、新しいテレビを自宅に迎えたいという気持ちに火がついたと想像してみてください。どんな大きな投資でもそうであるように、あなたはまず最も有名なブランドを調べることから探求を始めるでしょう。では、最初の一歩とは?直感的にGoogleに飛びつき、自宅の主役としてぴったりのテレビを探し、YouTubeやFacebookでレビューに目を通します。これがあなたの旅の出発点であり、「認知/発見」の部分です。また、最初に検討したブランドが最終的な選択肢になる可能性が3倍高い、とも言われています。
しかし、数ある広告の中で、特定のブランドを際立たせるものは何でしょうか?それは、あなたの旅を深く理解していることです。そのブランドは、あなたのニーズに合わせて、最も魅力的な商品特性をブログ記事や記事で紹介し、効率的に検索でヒットされるようにします。そして、あなたのソーシャルメディアは、これらのブランドに関する豊富なコンテンツで満たされた活気ある場となり、ポジティブな印象を与えます。これが、あなたの旅の第2段階、「関心/エンゲージメント」です
そして今、ブランド候補は3つに絞られました。どのブランドがより魅力的か、パートナーと熱心に話し合い、レビューの情報を何時間もかけて調べています。実物を見て確かめたい一心で、実店舗にも訪れました。価格比較サイトにもアクセスしました。旅の第3段階「検討」に入ったのです。ここでは、ブランドのリターゲティング広告が活躍し、あなたの最終的な決断に大きな影響を与えることになります。
そして、お気に入りのブランドやECプラットフォームからの割引やプロモーションの誘惑が、あなたを最終的な決断「購入」へと誘います。しかし、あなたが購入の喜びに浸っているときでも、ブランドが与える感動が終わったと考えてはなりません。購入後の経験こそ、ブランドが輝きを放ち、今後のすべての決断に影響する考えや気持ちの形成するのです。こうして、旅は楽しい発見が続くサイクルとなります。
消費者がどのように意思決定を行うかを深く理解することが第一歩です。多くのマーケターにとって難しいのは、その業界で最も重要なタッチポイントに戦略と努力を集中させることです。あるシナリオでは、マーケティングの軸を、検討段階への集中から、ブランド認知の促進へとシフトする必要があると言われています。そうすることで、消費者が幅広く活発に商品を評価する段階で信頼を築くことができると考えられます。一方、新規顧客獲得に時間と予算を割くよりも、ロイヤルティプログラムの方が良い投資だと考え直す必要がある場合もあります。さらに、ブランドはブログの専門家向け記事の作成にもっと力を入れることを検討する必要があるかもしれないです。
消費者の意思決定プロセスが複雑化するにつれ、デジタルマーケティングファネルの戦略を忠実に守ることが必要になっています。昨今では、プロセス全体を通して消費者の行動、ブランドパフォーマンス、マーケティングの費用対効果を測定する革新的な手段も登場してきています。

さいごに

従来、マーケティング担当者は、マーケティングファネルの上段または下段のいずれかを優先し、ブランド認知を構築するか、既存の需要を活用して販売を促進することに努めてきました。しかし、従来のマーケティングファネルの一部分にのみ集中することはリスクとなり得ます。戦略的な投資対象となるはずの重要な意思決定段階を逃し、適切な顧客にエンゲージするための機会を失う可能性があるのです。
デジタルマーケティングは長い間、ビジネスを拡大し、中小企業を大企業に成長させるという期待を持たれてきました。マーケティングファネルの中で正しいデジタルジャーニーをたどれば、より正確で費用対効果の高いマネジメントが可能になります。