中小企業がベトナム市場で勝ち抜くデジタル戦略

中小企業がベトナム市場で勝ち抜くデジタル戦略

以前の記事では、SNS広告の活用に関して、ベトナムでの新規ビジネスがよく直面する課題を取り上げました。購入者数が比較的停滞しているのに対して、販売者数が不釣り合いに増加している市場環境を説明しました。さらに、SNS広告に関して、広告のセットアップ・最適化・戦略などのよくある間違いを取り上げました。今回の記事では、前回の調査結果をもとに、飽和状態の市場環境を乗り切るために重要なステップと戦略についてまとめています。読者の中には、社内でデジタルマーケティング担当ではない方もいらっしゃるかもしれません。そのような方でも、記載されている戦略を理解することで、会社の成長に必要な戦略や適切な担当者を検討するのに役立ちます。
また、まずはEC販売のロードマップを構築したいという方は、ベトナムEC市場攻略!7ステップで始める効率的なオンラインビジネス構築法をご覧ください。

1. 効率的なキャンペーンの構成

データドリブンなデジタルマーケティング手法に慣れていない方や、この分野での経験が乏しい方は見落としがちですが、このステップは非常に重要です。前述したように、最適なデジタル戦略なしに闇雲に多数のキャンペーンを打つのではなく、科学的なアプローチが効果的です。以下の項目では効率的な戦略を具体的に掘り下げます。

a. メディアプラン

デジタルマーケターがまず重視すべきなのは、包括的なメディアプランの立案です。これは、上司やクライアントを満足させるための恣意的な目標設定ではなく、現実に基づいた重要業績評価指標(KPI)の設定が欠かせません。KPIを設定する過程で、過去のデータ(過去一年間や直近の3ヶ月間)から最善・最悪のシナリオを予測し、的確に広告を配信するための計画を作成します。
メディアプランでは、主要なKPI(予算配分・クリック数・クリックスルー率(CTR)・広告費用対効果(ROAS)・顧客獲得単価(CPA))を日々追跡することになります。そして、例えば10日ごとに計画と実績の乖離を評価し、計画を調整していきます。この作業にはそれなりの工数が発生しますが、Google Spreadsheet・Excel・Locker Studioなどのツールを使えば、効率化することができます。マネージャーは、担当メンバーから以下のような詳細なメディアプランを月次ペースで提出してもらうことをお勧めします。
  • 配信目的と予算見込み
  • 広告チャネルの配分
  • ターゲットオーディエンスのセグメント
  • 日次ベースのアロケーション
  • 計画の実行戦略
  • 広告最適化の指標

b. キャンペーンの構成

大手広告代理店では、特に月間数十億ドンに達する大規模なブランディングキャンペーンを支援する場合、広告のセットアップ作業が膨大になります。そのため、代理店はそのような作業をインターンに任せることがよくあります。しかし、インターンの仕事をマネジメントし、正確に作業を進めているか確認するのは大変な仕事です。そこで、マーケティング担当者(インターンの上長)はキャンペーンの構成を具体的なテンプレートに落とし込むと効率的です。
これらのテンプレートは、オーディエンスセグメント・キャンペーン構成・広告セット・予算配分の概要を示す設計図のような役割を果たします。バナーやコンテンツなどのクリエイティブアセットを体系的に分類し、インターンがプランに沿ってシームレスに広告作成を出来るようにします。
なお、広告キャンペーンは基本的にマーケターがコントロールできますが、些細なミスが大きなトラブルに繋がることを念頭に置いておく必要があります。設定ミス、問題のあるコンテンツの配信、トラッキングの見落としなど、一見些細なことのように見えますが、企業にとって大きな損失につながるリスクがあるのです。他にも、Googleディスプレイ広告は一歩間違えると予算を使いすぎる傾向があり、月々の予算を数日で使い果たしてしまうことがあります。構造化されたアプローチは、キャンペーンのパフォーマンスを最適化するだけでなく、予算超過を効果的に制限します。
セットアップが完了したら、SyncWithSupermetricsなどのETLツールを使用して、FacebookとGoogleからデータをスプレッドシートファイルに取り込むことができます。そして、Google Spreadsheet/ExcelのSplit Text formulaを使って、KPIに必要な値を組み合わせます。
例えば、ここではオーディエンス・クリエイティブ・ロケーション・性別・キャンペーンタイプに関するパラメーターを取得し、いくら費やしたのか、どの程度効果があったのか、最適化のためにどのようなアクションが必要なのかを確認することができます。

2. 効率的な広告の複製

広告を複製することにはメリットがありますが、この戦略には慎重に取り組む必要があります。ここでは、事前に考慮すべき重要な指標について説明します。
  • 効果的な広告に寄与しているのは「オーディエンス」もしくは「クリエイティブ」?
広告の効果が「オーディエンス」(広告配信のターゲット)による場合、予算にもよりますが、広告セットを複製して同様のオーディエンスをターゲットとする広告グループを1~3つ作成することが推奨されます。ただし、広告の効果測定のキャパシティを拡大するために、新しいコンテンツやクリエイティビティを追加する必要があることに注意してください。
一方で、「クリエイティブ」による場合、特に新しい顧客ファイルで成功したクリエイティブ要素を複製し、効果評価をスピードアップするのが良いアプローチです。
  • 広告のフリークエンシーは?
顧客層はそれぞれ規模が異なります。例えば、低価格の大衆向け商品のキャンペーンでは、より幅広いターゲティングを行う傾向がある一方、専門的な商品のキャンペーンでは、A/Bテストをスピードアップするために、より狭いアプローチで行うことが多いです(通常、推定オーディエンスサイズは30~50万人以下)。そのため、広告の複製を開始する前に、キャンペーンに応じたフリークエンシーの指標を検討することをお勧めします。もし顧客が1日に3回広告を見るのであれば、広告の複製はFacebookが儲かるだけで、顧客にとっては迷惑になる可能性があります。このような場合は、チーム内で新しいコンテンツ作成を検討する方が望ましいです。
  • どの程度の広告複製が最適か?
基本的には、オーディエンスの規模や商品の多様性に応じて、好きなだけ複製することができます。ただし、広告の重複をできるだけ減らすため、同時複製は3グループ以内に抑えることをお勧めします。顧客調査にしっかり時間を割くことで、より魅力的なコンテンツやキャンペーンコンセプトを生み出すことができます。

3. 販売チャネルの多様化

今日のECの世界では起業家を名乗る人が多いですが、全員がそれに当てはまる訳ではないと考えています。大きく分けて 「メルシャン」「起業家」の2つのタイプに分かれます。
メルシャンにとっては、ブランドを構築することは良いことですが、必須ではありません。在庫と価格にアドバンテージを持っているため、ECはビジネス規模を拡大するのに適した場所です。顧客に評判の良いディストリビューターとして認知され、トレンドをつかめば、売上は必ず上がってきます。
一方、起業家は、ビジネスの持続可能性のために強力なブランドを構築したいと考えます。ECはビジネス成長に寄与しますが、スタート地点としては最適ではありません。それはなぜでしょうか?

a. コスト

✓ 固定費:4%
✓ 売上コミッション:4%
✓ 支払手数料:4%
✓ 広告費:10% - 20%
✓ 返品手数料:2%
✓ クーポン/送料無料/割引
その他、カスタマーサポートに関連する細かい手数料が多く、合計で商品価格の最大50%のコストがかかることもあります。特に、新しく出店するショップにとって、プロモーションやキャンペーンはもちろん、10%の広告費は想像以上のコストになるかと思います。しかし、ECでプロモーションを行わないということは、単純に競合他社に需要を奪われてしまうことになります。その上、Shopeeは販売者に送金する前に15~20日間資金を保持するため、先述の時間内に資金を回転させることは非常に難しくなります。

b. 顧客情報

Shopeeや世界中のECモールは、顧客情報を共有してくれません。リターゲティングやマーケティング目的のために、顧客の電話番号やメールアドレスを知ることもできません。具体的な顧客情報がないため、新製品や製品改良のための顧客像をイメージすることも難しいです。
他にも、Shopeeが商品情報の記載を3,000文字に制限している場合、どのようにブランドストーリーを構築し、商品の特徴を明確にするかなど、多くの問題があります。マーケットプレイスでのビジネスは、誰もが利用できるためシンプルですが、シンプルであるがゆえに、効果的な活用は容易ではありません。そのため、自社のウェブサイトを構築し、重点的に取り組むことをお勧めします。Shopee・Lazada・TikTok Shopは、マーケティングファネルの末端にあるチャネルであり、ニーズのある人々を顧客に変える役割を担っていると考えてください。これが、持続可能なブランドを構築する最善の方法です。

c. ECサイトを構築するには?

Shopifyは、ビジネス規模拡大を目指す際にECサイト構築に最適な選択肢です。世界中のデータに基づいて構築された基盤を持つShopifyは、ユーザーが使いやすく、商品を管理しやすいように設計されています。さらに、Shopifyにはアプリマーケットプレイスというエコシステムがあり、オンラインストアの機能を拡張するための追加アプリを検索してインストールすることができます。
アプリマーケットプレイスで人気のあるアプリケーションは以下の通りです。
  • Mailchimp:メールマーケティング戦略の作成・管理
  • Oberlo:AliExpressからShopifyストアに商品を簡単にインポート
  • Yotpo:商品の評価やレビューを作成・管理
  • Bold Upsell:決済プロセス中に関連商品やより価値の高い商品を顧客に提案し、売上を増加を狙う
  • ReCharge:毎月または四半期ごとの定期購入プログラムを作成・管理
Feedforce Vietnamは、Shopifyのパートナーとして、ベトナムでのECサイトの構築・開発のサポートしています。
参考:Shopify
参考:Shopify

4. ブランド・ストーリーとブランド・アイデンティティの構築

広告は死んだ。確かに、伝統的な広告、つまり製品の利点について人々に別の考え方を説得しようとする広告は効果的ではなくなってきている。メディアがより多様化され、消費者が企業のマーケティングの主張に対してより懐疑的になっていることが理由だ。しかし、カルチュラル・ブランディングは違う。象徴的なブランドは、人々が好んで見る広告を打つ。ウェブの出現により、消費者はそれを求めるようになった。
ブランド・ロイヤリティとは、あるブランドにとどまろうとする顧客の意思のことである。たとえ競合他社が、自社と同じように魅力的なオファーを持ちかけたとしても、顧客が自社のブランドと歴史を共有し、ロイヤリティが高ければ優位になる。顧客の定着度は、ブランドの市場競争力の鍵である。
これは、ダグラス・B・ホルトの『ブランドはいかにしてアイコンになるか(How Brands Become Icons)』からの抜粋です。この本は2004年に出版されており、ブランド・ストーリーを構築するよりも短期的な戦略を優先しがちな今日のビジネスに関連する問題を提起しています。
著者ホルトによると、MBAで武装した企業のブランド・マネージャーは収益予測やROIといった財務指標を扱うのには優れていますが、消費者の購買行動を駆り立てるストーリーや消費者の人生経験に対する洞察に欠けていることが核心的な問題であると主張しています。ホルトは、Mountain Dew・Harley-Davidson・Coca-Colaのような象徴的なブランドが特定の顧客層をターゲットにすることで、ブランドを取り巻く文化をどのように醸成しているかを説明しています。これらのブランドの顧客グループがブランドの支持者となり、Harley-DavidsonやMountain Dewのファンが体現する憧れのライフスタイルに惹かれる大衆にブランドメッセージを広めています。この現象は、ベトナムや東南アジアにおけるラップミュージックの台頭と類似しています。
1963年のHarley-Davidsonの印刷広告
1963年のHarley-Davidsonの印刷広告

5. さいごに

ベトナムの新興企業が複雑なSNS広告を使いこなすには、多面的なアプローチが必要です。市場の飽和や広告運用における技術的なミスなど、よくある課題に正面から取り組むことで、企業は成功への強固な基盤を築くことができます。また、現実的なKPIの策定や綿密なトラッキングを伴う効率的なキャンペーン構成は、効果的なマーケティング戦略の礎となります。ライブ配信・割引・送料無料など、短期的な売上を伸ばすための成長戦略だけに注力しないことが重要です。ブランド・アイデンティティやブランド価値の構築と、KPIに従った売上へのコミットメントそれぞれの課題に対してバランスよく取り組み、レビューも参考にしながら、ビジネスが正しい方向に向かっていることを確認していくことをお勧めします。

6. フィードフォースベトナムとECの売上増加を目指す

フィードフォース・ベトナムは、急成長するベトナム市場において、マーケティングとテクノロジーに精通したECコンサルタントチームです。
上流工程のコンサルティングに強みを持ち、ECサイト制作、マーケットプレイス運営、広告運用をワンストップで総合的にサポートしています。特に、Shopee・Lazada・Shopifyなどのプラットフォームに精通し、これまでベトナム国内で支援実績を重ねてきました。